廃墟からの復活・総領事館へ

この文章は、リュックサック with パスポート・クレカ・一眼・現金30ユーロを丸ごと盗まれた与太郎が、「シュトゥンデ・ヌル(零時)」から生活再建を果たしていく記録である——

 

なにをなすべきか?

生活再建において、何よりも行政的な手続を一番はじめに行わなければならない。私の場合では何はともあれパスポートの再発行が最も重要である。異国の地において、外国籍である人間が自らを証明する唯一の手段がパスポートだからである。パスポートがなければ、「通路故障なく旅行」することも、「必要な保護扶助を与えられ」ることもできない。アナキストなら国家の庇護から脱せられて喜ぶかも知れないが、あいにく私はアナキストではないので、おとなしくパスポートを再発行する道を選んだ。

必要なもの

インターネットに情報はあふれているので詳細は省くが、現地警察発行の盗難証明書・証明写真・戸籍謄本or妙本が三大必要書類である。特に謄本がクセモノで、日本から持ってきていなければ盗難に遭った翌日に総領事館に駆け込む芸当はできなかった。謄本を持ってきていない場合、とりあえず日本在住の親類にお願いして謄本を取得してもらい、画像で送ってもらえば一時しのぎにはなるらしい。これ日本に親類も知り合いもいない独り身だったらどうするんですかね?今から将来が不安になってくる。独り身は戸籍謄本を100枚くらい持って行くしかないのか……?

デュッセルドルフ

午前11時にデュッセルドルフ総領事館に着く。ボンの大本営からは90分ほどの所要時間であり、感覚的には横浜の実家から都の西北まで行くのと同じであった。てっきり総領事館の入口にはデッケぇ菊の御紋が燦然と輝いてたりするものだと勘違いしており、菊の御紋を目指して歩いてしまったがゆえに総領事館の目の前を通り過ぎた後1ブロックを一周してようやくたどり着いた。想像してたより質素な入口であった。

f:id:cyber_woodpipe:20191123010007j:plain

建物の中に入ると、「うわーコレだよコレ!いかにも祖国のお役所なフォント!」と内心で大声を上げる。祖国思い出し感動ポイントその1である。

f:id:cyber_woodpipe:20191123010222j:plain

階段を上がると、そこには菊の御紋が燦然と輝いていた。天皇制と呼称される事実上の宗教に対する素朴な信仰心をなんだかんだ自覚しているので、菊の御紋を見たときに何か大きな権威に庇護されている安心感を感じた。祖国では感じなかったが、異国に住んでみて初めて体感した新鮮な感情であった。いかんせん大ポカをやらかしてメンタルが若干弱っているので、なおさらそういうものに敏感なのかもしれない。現政権の思うツボか?

f:id:cyber_woodpipe:20191123010815j:plain

総領事館の中の雰囲気は完全に日本の役所であった。係の人もパスポートを盗られたマヌケな同胞に対して非常に懇切丁寧な対応をしてくれたし、15分に1人くらいのペースで祖国の同胞が訪れてくる。唯一日本の役所と異なる点は屈強な黒人ガードマンがいるくらいだ。見慣れた形式の書類に体に染みついた形式で記入を進めていく。あゝなんと順調にコトが運ぶことか!外国の役所で感じるフラストレーションなぞココでは皆無である。総領事館の中には"""日本的"""なもの、例えば日本人形や工芸品などが装飾としておいてあった。しかし、祖国への郷愁を惹起させたのはそれら「"""日本的"""なもの」ではなく、18歳選挙権を宣伝する総務省のポスターや、見慣れたパスポート申請書類等であった。こうしたポスターや書類は自分の祖国における日常生活に属するものだからであろうか。12時くらいに作業は完了し、来週の木曜日に新たなパスポートを受け取れる運びになった。

気が付けば昨日の15時くらいから何も口にしていない。傷心を癒やすためにもちょっと奮発して祖国メシを食べようと思い、デュッセルドルフで有名な定食屋に向かった。この店は日本という国家における(おそらく)標準的な社会で育った人間に対してのツボを完全に抑えていた。まず店に入ると「いらっしゃいませ」から始まり、席に座ると暖かい麦茶(!)が出てくる。そして定食にはデフォルトで豚汁(!)とゴボウ(!)のきんぴらが付いてくる。そして極めつけは「お茶のおかわりはいかがですか?」だ。ここまで来るともうノックアウト、ゲームセット、ノーサイドゲームである。なるほど現地駐在の邦人がこぞって訪れるワケだ。味の点では特筆すべきものはないが、このサービス及びレパートリーでリピート確定である。今回は唐揚げカレー定食を頼んだ。カレーは当地において作れることは作れるが面倒くさいし、もも肉に至っては骨付きで売ってるのがデフォルトであるため当地に来てから一度も食べていなかった。祖国では脇役・モブ・その他だと思っていた福神漬もなかなかニクい役割を果たしていることに気付く。久しぶりに祖国メシを外で食べて、生活再建へ向けての英気を養うことができた。f:id:cyber_woodpipe:20191123012542j:plain